討論日:2025年10月14日本会議 小林おとみ区議会議員

ただいまから、日本共産党板橋区議会議員団を代表し、陳情第104号「国がいのちのとりで裁判(生活保護基準引き下げ訴訟)最高裁判決に従い、生活保護行政の抜本的見直しを求める陳情」の委員会決定「不採択」に反対して討論を行います。
本陳情は、「判決に従い、全ての生活保護利用者への謝罪、引き下げ前の基準による保護費との差額支給など必要な被害回復措置を直ちに講じるよう、区議会から国に対して強く意見をあげること」「生活保護バッシングの再来を許さない、「『生活保障法』の制定等の措置を速やかに講じるよう国に求める」こと、「板橋区が本判決に従い、改めて生活保護利用者の人権の視点から生活保護行政を総点検すること」を求めるものです。
2025年6月27日、最高裁判所第三小法廷は「生活保護基準引き下げ処分取り消し等請求事件」、いわゆる「いのちのとりで裁判」の大阪地裁分と名古屋地裁分の上告審の判決を下しました。その内容は、2013年から3年間にわたる生活保護基準引き下げについて、引き下げ総額670億円のうちの580億円分に当たる「デフレ調整」について、裁判官全員が一致して、「厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法」と断罪したものです。判決では認められなかった「ゆがみ調整」と損害賠償請求については、宇賀克也裁判長からは反対意見が付されました。10年にわたって全国29の地方裁判所で31の訴訟が提起され、下級審の判断が分かれたところ、最高裁の統一判断が示されたものです。その後の地方裁判所では、次々に最高裁と同じ判決が下されています。
2013年から3年間にわたって行われた生活保護費の引き下げは、生活保護世帯の96%にあたる200万人以上が対象となり、食費や光熱水費など生活扶助費について、1世帯当たり平均6.5%、最大10%にのぼる戦後最大の減額となりました。板橋区においても、対象は14,055世帯、19,106人に及んでいます。
生活保護を受けながらも、生活保護費の一部が未払いの状態が放置され、最低生活費が保障されてこなかったということであり、重大な政治責任が問われる問題です。最低生活費の基準は、就学援助や障害者福祉、介護・医療の負担軽減など、47の施策にも及び、その被害は甚大です。
しかし、この判決をうけての厚生労働大臣の対応は、「判決内容を十分精査し、適切に対応」というコメントを発表したのみで、その後は、専門委員会の審議にすべてをゆだねています。委員には生活保護基準の専門家はおらず、厚労省側の出席者も幹部のみで、メディア以外の傍聴を認めず、ライブ配信のみ、アーカイブ配信もせずという委員会のあり方にも批判の声が上がっています。委員会は8月から5回開催されましたが、いまだ、謝罪も被害回復の方向も示されていません。それどころか10月2日に行われた第5回の委員会では、「2013年の改定を仮に再度やり直す場合の論点整理」などが提起されており、引き下げのやり直しまで狙われている状況です。あまりにも不誠実な対応と言わざるをえません。この裁判は、2014年から全国で1027人の生活保護利用者が原告となり300人の弁護団に支えられて闘われた裁判です。激しい生活保護バッシングの嵐が吹き荒れる中、少なからぬ原告が勇気をもって実名・顔出しで、最低生活の基準を下回る生活の実態を訴え続けてきたものです。10年にわたる裁判闘争の中ですでに232人の原告が亡くなっています。被害の大きさからも、また原告の2割がすでに他界しているということからも、早急な解決が求められていると考えます。
板橋区議会からも、厚労省に対して、最高裁判決を真摯に受け止め、謝罪と被害回復を早急に行うよう、強く声を上げていこうではありませんか。
また、この生活保護費の引き下げが、安倍政権の選挙公約を実現するために政治的に作られた引き下げであったという点は重大です。裁判でも明らかにされたように、2013年から2015年にかけて行われた削減は、生活扶助費を一般低所得世帯の消費支出との均衡で決めるという従来の手法ではなく、初めて物価変動率で調整するということを、審議会にもかけずに強行したものです。裁判でもこの点が厳しく断罪されています。2008年から2011年にかけての物価の下落に対し、「生活保護費が高い」ということが喧伝され、また、特定の芸能人をやり玉に挙げた生活保護バッシングが振りまかれた中で行われたものです。しかし、訴状でも明らかにされているように、厚労省が示した物価変動率において、物価を押し下げたものはデスクトップパソコン74,7%、ノートパソコン73%をはじめとした電化製品で、生活保護世帯の生活水準への影響は全くないようなものばかりでした。一方、物価が引き上がったものは、たばこ、ジャガイモ、タマネギなどが、それぞれ38.4%、31.3%、30%などで、食料品、生活必需品の物価は上昇していました。にもかかわらず、物価変動率全体を基準にしたのは、生活保護費を最大10%引き下げるためにとった手法以外の何物でもありません。
板橋区においても、25名の方が、こうした決定を不当なものとして不服審査請求を行いました。時の政権に忖度して、憲法が定めた「最低限度の生活」の水準まで引き下げるようなことは二度と許されません。生活保護行政が政治によってゆがめられたことへの怒りをもって、板橋区として国に声を上げていこうではありませんか。
最後に、「生活保障法」の制定及び区として生活保護行政を総点検することについてです。日弁連が提案する「生活保障法」の提案は、一時的な困窮に陥った人も含めて誰もが必要に応じて利用しやすい制度にすること、最低生活費の決定方法の透明化や検証方法、ケースワーカーの専門性の確保など、権利としての最低生活を明確にした点で重要な提案だと考えます。日本の生活保護の捕捉率は2割と言われています。「生活保護バッシング」を許さず、憲法25条を真に実現していくために、生活保護行政を「保護」ではなく、「権利保障」の制度に転換していくことを目的とした「生活保障法」の制定は必要なことと考えます。
「板橋区の生活保護行政の総点検」についてですが、国が制度設計をし、保護費の厳格な管理や自立への支援が福祉事務所の仕事であることは当然です。しかし、生活実態を最前線でつかんでいるのは福祉事務所であり、目の前で支援している生活保護利用者の生活実態が本当に「健康で文化的な最低限度の生活」と言えるのかどうか、人間らしく、その尊厳が認められているかということを問い直し続ける姿勢が必要だと考えます。
以上、陳情第104号の全3項目について、賛成する立場での、私の討論を終わります。