2022年度板橋区予算に反対する討論

討論日:2022年3月24日 

 ただいまより日本共産党板橋区議会議員団を代表し、議案第2号2022年度東京都板橋区一般会計予算、議案第3号同国民健康保険事業特別会計予算、議案第4号同介護保険事業特別会計予算、議案第5号同後期高齢者医療事業特別会計予算、議案第6号同東武東上線連続立体化事業特別会計予算に反対する立場から、また、議案第38号同一般会計予算に対する修正動議に賛成する立場から討論を行います。

 2022年度当初予算は一般会計歳入歳出ともに2297億9千万円(前年度比4.0%の増)、(国保・介護・後期高齢・東上線立体化)4つの特別会計を合わせると総額3445億4600万円(前年度比4.3%の増)です。歳入の特徴として、コロナ対策への国や都の補助に加え、一部企業の収益増などにより税収が増えています。しかしながら区は、昨年度来の『緊急財政対策』方針に基づく緊縮財政を維持しています。一方で財政調整基金を20億1400万円取り崩すものの、全ての基金総額は(2022年度末時点)で938億1800万円となる見込みで、予算・基金いずれの規模も過去最大です。

 長引くコロナ禍で疲弊した区民の暮らしを守る予算になっているかが問われています。

反対する第一の理由は、命と暮らしを守るコロナ対策になっていないからです。

 新年度予算では、衛生費が今年度当初予算比で増額となり、コロナ対策として65億円余の予算が計上されています。しかし、区単独の負担は全体の14%に過ぎません。収束が見えない中で、これまで以上の対策が必要です。

 ところが、PCR検査については、今だに擬陽性・偽陰性があると問題視し、無症状者や社会的検査の拡大に消極的な姿勢です。「検査によって感染拡大を抑え込めるというエビデンスがない」といいますが、検査を行わずどうやって無症状の感染者を見つけるのでしょうか。感染状況を把握し適正な感染者の保護を行う方向へ転換すべきです。

 また、感染者への医療の提供や確保について、区としての対策がなく、医療機関任せとなっています。第5波以降、入院調整に時間を要し、必要な医療が受けられないまま自宅で亡くなる方が急増しました。コロナ禍にもかかわらず、国は、消費税を財源に、2404床もの急性期病床を削減しました。こうした方針に対し、区はものをいう立場にないとの姿勢です。医療のひっ迫により、救える命が救えないという状況に、区民の命を守るべき自治体が無関心でいいはずがありません。

 加えて、区が直接責任を負う、保健所体制については、他の業務を担う保健師は増員されるものの、感染症担当の保健師は増員されていません。感染拡大の際は、他業務の保健師を兼務させるとしていますが、兼務はあくまで緊急対応です。他業務の保健師が兼務することで、当該業務に影響がでることは否めません。自殺対策や母子保健、障害者支援などまさに命や人権擁護を担う業務が後回しになることはあってはなりません。感染症担当の保健師を増員すべきです。

 医療や保健所のみならず、保育園・学校・介護や障害者施設、事業所等、社会活動の維持のために必要にもかかわらず、見合った支援が行われていません。介護の現場では、事業所や施設、ヘルパーやその家族の感染などにより、事業が継続できない事態が広がりました。ところが、区は訪問介護ができない状況に対し、何ら対策を講じず、その把握さえ行っていません。特に在宅介護が実施できない状況は要介護者やケアを行う家族にとって命にもかかわる重大な問題です。介護が継続できる仕組みづくりについて区として責任を持つべきです。

 ケア労働者に対する手当の支給が行われますが、平均月額わずか9千円であり、処遇改善として全く不十分です。区としての上乗せがないことも問題ですが、国に対し、抜本的な見直しを求めることさえしていません。

 また、保育園やあいキッズの利用自粛による保育料返還に対する予算が計上されていますが、適用されるのは、区が自粛要請をした場合に限られています。返還していた時より、第6波の方が登園率が下がっています。在宅ワークが広がり、自粛が可能な世帯もあります。利用実態に合わせ返還すべきです。

 国が実施する住民税非課税世帯及び家計急変世帯への10万円給付事業が実施されています。しかし、生活困窮の範囲が狭く、生活保護基準を下回る世帯でも給付を受けられない状況です。せめて生活保護基準まで引き上げるなど、区として対象を広げるべきです。新年度予算には、生活や生業に対する現金給付事業が拡充されておらず、暮らしを守るという視点が足りていません。

 国は、濃厚接触者の特定を行わないなど、コロナ対策を後退させる動きを強めています。これでは収束どころか、今後も感染拡大の波を繰り返すことを容認するものであり、感染症対策になりません。区として感染拡大を抑え込み、区民の命・暮らし・地域経済を守る立場に立つ対策へと転換すべきです。

 反対する第二の理由は、SDGsを掲げ「誰一人取り残さない」などといいながら、対策や支援が従前とほぼ変わらず、狭い範囲にとどまっているからです。

 まず、格差と貧困是正への取り組みです。

 課税所得200万円以下の世帯が増加し、雇用の悪化や低賃金、消費税増税の影響を認める一方、その対策は取られていません。区は、消費税の減税を行うことやインボイス制度の導入をやめることなど国に意見を上げるどころか、容認しています。区民福祉の向上を担う行政として、暮らしを苦しめる国の制度にはきっぱり反対の声を上げるべきです。

 産業経済費は、歳出構成比で1.18%となりましたが、事業者への現金給付事業は皆無です。区が独自で実施した『事業継続支援金給付事業』は飲食店を除く区内事業者の4分の1が申請をしています。事業継続が廃業かの瀬戸際に立たされている事業者には、直接支援が必要です。地域経済を守るためにも給付事業を含む経済対策を実施すべきです。

 公務労働でありながら、公共事業における雇用や賃金に何ら責任を負わず、民民の契約とし関与する姿勢を示さないことも問題です。暮らしや経済の立て直しには、雇用や賃金などの処遇改善が欠かせません。また、発注者としての責任も問われています。他自治体でも広がっている公契約条例の制定に背を向け続ける姿勢は改めるべきです。

 住まいの確保の点では、住居確保給付金の支給対象がコロナを理由に拡大されましたが、実績が減少しています。制度そのものが転職を前提とし、ハローワークに通うことが要件になっていること、一生涯に一度しか申請できないことなど、使いにくいものになっています。また、生活保護制度のもとでも家のない人や最低居住水準を満たしていない人などに対し、適切な支援が行われていません。一時生活支援事業の実施や公営住宅の増設、民間賃貸物件の借り上げ、家賃助成など『住まいは人権』の立場に立った対策を行うべきです。

 貧困の拡大の一方で、生活保護制度の利用は微増にとどまっています。制度の捕捉率は2割~4割と言われ、低い水準のままです。スティグマの解消が指摘されていますが、申請書類の煩雑さや扶養照会など、申請のハードルは高いままです。また、制度に対する説明や支援が十分に行われず、権利が阻害されています。必要な人が制度を利用できるよう、アウトリーチ型支援へ踏み出すなど具体的な見直しを図るべきです。

 子どもの貧困対策係を廃止したことも問題です。現代の貧困は、表に出にくく、貧困に陥っている状況を把握し、必要な支援につなげること、家事援助や送迎支援など具体的な支援策を拡充することが求められています。庁内で横断的に取り組むことができるよう、むしろ担当課こそ設置すべきです。

 新年度からすべてのいこいの家が廃止となります。高齢者の居場所を奪うことは、福祉の後退に他なりません。

 また、社会保障に関する自己負担の増大も深刻です。新年度は国保・後期高齢医療保険料がまた値上げとなります。

 国保は未就学児の均等割り分が2分の1減額となりますが、そもそも高すぎる保険料の引き下げにはなっていません。差し押さえについて国保だけが非課税世帯にまで行っていることも問題です。国保加入世帯の62.9%が均等割りのみの世帯であり、低所得層です。高すぎる保険料こそ引き下げるべきです。

 後期高齢者医療については、一人当たりの保険料が3789円の引き上げとなります。加えて10月からは窓口負担が2割に引き上げられます。お金がないために必要な医療が受けられない事態を招く、負担増を押し付けるべきではありません。

 介護保険については、準備基金が34億円積みあがっており、保険料や利用料の軽減に踏み出すべきです。

 区は、個々の制度における軽減や減額制度で対応しているとしますが、収入に占める社会保険料額の負担は限界を超えています。社会保障費全体の個人負担の上限を定めるなど、軽減の考えを持つべきです。

 地球規模での気候危機に向き合う姿勢も問われます。

 区は、気候非常事態であることを示した『ゼロカーボンシティ宣言』を表明しました。新年度は、764万7千円の予算が計上されていますが、規模も内容も全く足りていません。そもそも目標が低すぎます。こうした姿勢は他の施策にも影響します。緑化対策費は17.7%の増額となっていますが、その中身は公園管理費が主なもので、カーボンゼロに相応しい緑化促進になっていません。また、区内4カ所での大規模な開発やまちづくりにより、CO2の排出量が増大する懸念があります。区が、気候非常事態と認識しているのであれば、宣言に相応しく目標や計画を見直し、あらゆる施策に反映させるべきです。

 気候変動の影響から台風や大雨の被害が多発しており、水害対策の強化は待ったなしの課題です。区は、新年度からようやく避難行動要支援者の個別避難計画の策定が盛り込まれましたが、策定件数はわずか100件です。必要な体制を確保し、一気に策定を進めるべきです。また、土砂災害を防ぐ、がけ擁壁助成は助成額の増額を図ったものの、実績がありません。さらなる助成額の増額が必要です。災害対策全般について、感染症対策や気候危機を踏まえ、全面的な見直しを図るべきです。

 ジェンダー平等や人権擁護の認識も問題です。

 児童相談所を含む子ども家庭総合支援センターの運営が始まります。一方で、家庭へのケアや社会的養護が足りていません。子育てを支えるには相談だけでなく、具体的な支援が必要です。また、区は子どもの権利条例の制定に背を向け続けています。区は、アドボケイト制度を導入し、子どもの意見表明権を保障するとしていますが、一部の権利だけでなく、子どもの権利を包括的に保障する条例を制定し、子どもの立場に立ち、権利を守るという姿勢を明確にすべきです。

 

 障害者差別解消法の改正に伴い、民間事業者へも合理的配慮の実施が義務付けられましたが、新たな取り組みがありません。また、すでに義務化されている区の取り組みも不十分です。実態を検証し、研修の充実や手続きなどにおける配慮など具体化すべきです。

 また、24時間365日相談対応が始まりますが、区職員の専門性向上のための体制強化が図られていません。適切な支援につなげることや必要な支援策を講じるためにも専門性を持った職員の増員を図るべきです。

 新年度の実質待機児童は大幅に減少する見込みとしています。一方、希望する園に希望する時期に入園できる状況には至っていません。そうした中で、区立園の民営化方針を持ち続けることは問題です。公立との格差があることを認めながら、その差を是正することなく、民営化することは保育の質を自ら投げ捨てるものであり容認できません。また、区立保育園におけるインクルーシブ保育の方針を持ち、インクルーシブ保育が可能な保育士の配置基準に改めるべきです。

 教育費は、大規模改修経費の減額などにより、前年度比13.3%の減となっています。問題は、その他教育費も減額となっている点です。すべての子どもの教育を受ける権利を保障するには、一人当たり教育費をさらに増額すべきです。不登校対策やICT化などの予算が増加しているものの、抜本的な人的保障がありません。このことは教員の働き方改善にも大きく影響しています。すべての子どもの教育を受ける権利を保障、教職員の過重負担をなくすためには、少人数学級の拡大や教職員を増やすことこそ進めるべきです。

 また、教育委員会の人権に対する認識も問題です。

 子どもの人権を多くの制限の中での部分的なものにしないためにも、教育委員会が人権意識を高める必要があります。『いたばし学びプラン2025』においてもこの視点が全く欠けています。抜本的な見直しを図るべきです。 

 区の姿勢は、SDGsを都合よく部分的にかいつまんで取り組んでいると言わざるを得ず、基幹的目標とされる貧困・人権・環境等の課題に正面から向き合うべきです。

 

 反対する第三の理由は、職員の働き方の改善や女性差別を解消するための体制になっていないからです。

 新年度の職員定数は111名の増員となっていますが、実人員は2月時点の見通しで30名しか増えません。区は、業務量に見合った人員を厳密に査定し適正な人員配置に努めるとしていますが、過重負担になっている時間外勤務を前提としていること自体が問題です。赤塚福祉事務所では、ケースワーカー1人当たりの担当件数が88名の見通しが示され、年度当初から区の基準さえ守られない状況です。他の部署でもとにかく人が足りず、コロナ禍も相まって、現場は疲弊しています。

 区は、AIの導入やICT化の推進によって職員の働き方の改善を図るとしていますが、最終的には人による確認や作業が必要です。基本となる動作を知り問題がないか確認できる職員を育成しなければなりません。時間外労働の削減という一面だけでなく、仕事の経験や継承という長期的な視点に立ち、必要な人員を確保することに振り向けるべきです。

 また、区職員の男女比は女性が上回っているにもかかわらず、管理職比率では逆転しており、登用や育成が進んでいません。特定事業主行動計画における目標もクリアできる見通しがなく現状の20.6%さえ維持できない見通しです。管理職のあり方やポストを増やすなどの見直しと合わせ、女性管理職育成のためのプランニングを抜本的に見直す必要があります。また、男性職員の育休取得は目標を超えているというものの、低い水準であることは変わりません。区の対策はこれまでの延長線上の取り組みに留まっています。特定事業主としての責任を果たしていない職員体制は認められません。

 反対する第四の理由は、行財政運営が、住民参加を保障しておらず、開発優先・基金積立優先で区民生活を置き去りにしているからです。

 まちづくりや公園含む公共施設整備にあたって、地域や区民の声を十分に聴き反映する姿勢が見えません。

 大山をめぐっては、当事者にもかかわらず聞いていないという声が寄せられ、高島平では団地の建て替えで住民が住み続けられないことが懸念されています。しかし、区は、民間事業者や都の事業だからと積極的に関与していません。住民の不安や懸念に寄り添う姿勢を持つべきです。

 公園については、Park-PFIの手法が導入されますが、民間事業者の儲けを生み出す仕組みであり、住民参加の保障もないことは問題です。

 自転車駐車場の管理について指定管理者制度が導入される予定です。これまで働いてきた方の就労が継続できる保障がありません。問題は、働く人の雇用や処遇に区として関わらないとする姿勢です。公共サービスのもとで広がる官製ワーキングプアの問題を認識せず、是正することもなく、アウトソーシングを拡大していくことはやめるべきです。

 このことは、福祉園や特養、保育園等の民営化にも当てはまります。民営化では処遇のみならず、現状の水準が維持できる保証はありません。コロナ禍でケア労働の重要性が問われている中で、区としての責任を放棄する民営化を検討している場合ではありません。

 区は新年度予算編成にあたって、財政危機を前提とした緊縮財政を維持しています。しかし昨年12月末時点で東京都の財調フレームが示され、今年度の収入が大幅にプラスになることが判明していました。結果としてコロナ禍にも関わらず、基金が100億円も積み上がること自体、異常です。

 区は、基金積立が優先ではないと言いますが、基金が増え続けていることは紛れのない事実です。緊急財政方針を見直し、区民生活への還元を検討すべきです。

区民には緊縮財政を強調する一方で、再開発やまちづくりは聖域化しています。新年度予算では8%シーリングや補助負担金の見直しを実施・継続しましたが、再開発関係経費に関わる補助金は増額されています。加えて、大山駅付近の鉄道立体化と駅前広場の事業認可による用地補償の積算で、今後かかる費用が当初より82億円増加し、区負担分だけでも205億円の税金投入が見込まれており、更に膨れ上がることも否定していません。区財政を圧迫しないという根拠はどこにもなく、身の丈に合った計画に改めるべきです。

 以上、予算案を容認できない理由を述べてきましたが、区の歳入や基金の状況から、区財政の厳しさは伺えず、厳しい区民生活こそ支援すべきと考え、予算修正案を提出いたしました。

 提案した事業は、1か月児検診及び産婦検診助成、省エネエアコン等購入費助成及びLED化促進、区内事業者への給付事業、がけ擁壁整備助成、就学援助制度の拡充として中学校クラブ活動費及び入学準備金の増額、小中学校の女子トイレに生理用品を配備するものです。

 修正額は、区長提案の一般会計予算の0.3%、2021年度末見込みの財調基金の2.5%にすぎず、区財政や区長の予算編成権に影響を与えるものではございません。少しでも区民生活の向上に寄与することができるよう、提出者として改めて皆さんに賛同を呼びかけます。

 最後に、今年度をもって退職される117名の職員の皆さまへ感謝と敬意を表明し、日本共産党板橋区議会議員団の討論を終わります。

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