2024年度当初予算に反対する討論

討論日:2024年3月22日

 ただいまより、日本共産党板橋区議会議員団を代表し、議案第1号「2024年度東京都板橋区一般会計予算」、議案第2号「同 国民健康保険事業特別会計予算」、議案第3号「同 介護保険事業特別会計予算」、議案第4号「同 後期高齢者医療事業特別会計予算」、議案第5号「同 東武東上線連続立体化事業特別会計予算」に反対する立場から、また議案第29号「同 一般会計予算に対する修正動議」に賛成する立場から討論を行います。

 区長提案の2024年度当初予算は、総額3719億4500万円、前年度比5.0%の増とするものです。一般会計は、納税義務者数の増などによる特別区民税の増、法人住民税や固定資産税の増などで特別区交付金の増などにより、収入増となっています。

 基金は、総額で、2022年度末1144億円から155億円積み上げ、1299億円と過去最高になりました。財調基金は32億積み上げて307億円です。

 2024年度板橋区予算は、10年間の板橋区の基本構想と基本計画の最後の2年間の仕上げをしていくと同時に、2026年度からの次期基本構想・基本計画の策定に着手する予算と位置づけられています。

 区民生活はこの10年どういう状況だったでしょうか。実質賃金は直近10年間で24万円も減少し、1996年のピーク時からは64万円も落ち込み、30年前の水準に逆戻りです。こんな国は先進国では日本だけです。一部の株価のつり上げや、大企業を中心とした賃上げのムードづくりが行われていますが、国民生活全体に行き渡るものにはなっていません。人件費削減と増税、社会保障の負担増を国民に押しつけ続けた政治に最大の原因があります。

 基本構想・基本計画の策定に向けて、今こそ、憲法に定められた地方自治の本旨に基づいて、「住民の福祉の増進」のために全力を尽くす板橋区の姿勢が示されなければなりません。

 2024年度板橋区予算は、そうした役割にふさわしいものになっているでしょうか。

 反対する第1の理由は、物価高騰対策が、弱者、低所得者への支援策になっていないということです。

 長期にわたる経済の停滞と暮らしの困難によって、家計が疲弊しきっているもとに襲いかかった物価高騰は、区民の暮らしに深刻な打撃を与えています。板橋区民の納税義務者の56.8%が課税標準額で200万円以下です、550万円以下をあわせると85%を占め、この1年間で10%近く増えています。女性や高齢者が収入を得るために新たに働き始めている実態が反映しています。この層への支援こそが求められています。

 2024年度一般会計予算に示された、物価高騰対策は52億円としていますが、新規の対策は打ち出されていません。

 いたばしPayが、消費喚起策として盛り込まれていますが、キャッシュレス決済、デジタル化に区民を誘導する役割を果たすものの、利用できない区民、事業者は取り残されたままになっている事業です。

 原材料費の高騰やインボイスの導入で苦しむ中小・小規模事業者が求める固定費への直接支援策などが打ち出されていません。給付金は、国の1回きりの定額減税頼みになっています。

 学校給食費無償化をいつまで物価高騰対策にしておくのでしょうか。義務教育無償化は憲法に基づき、子どもの教育を受ける権利を保障するものです。さらなる義務教育の完全無償化に向けて、私費負担をなくす対策に踏み出すべきです。

 物価高騰のもとで、低所得者、生活困窮者への支援をあらゆる分野で底上げしていくという視点がありません。

 災害対策での公的責任の拡充が求められます。

 備蓄物資を各家庭で3日分用意するように言われていますが、低所得者、高齢、子育て世帯等には、災害備蓄のための経済的支援が必要です。「避難所では誰に対しても拒むことなく物資供給をする」と言いますが、避難所で全ての人に供給できないからこそ3日分の各家庭での備蓄を求めているのではないですか。各家庭での備蓄の支援を拒む理由にはなりません。

 また、木造住宅の耐震化助成の対象が新耐震基準まで広がりましたが、耐震化が必要な木造住宅は1万1700戸と言われている中で、旧耐震以前の木造住宅への助成額の引き上げ等の支援策が打ち出されていないのは問題です。

 生活支援の底上げに最も必要なのは、住まいの確保です。非正規雇用が多い青年層や単身女性などに対する家賃助成を実施すべきです。

 区営住宅の2023年度の応募倍率は、家族向け一般で5.7倍です。入居したくても入居できない状況です。区は能登半島地震の被災者の受け入れについて「区営住宅の提供は考えていない。区の居住者の申し込み倍率が高い数値で推移しているため公平性を考えると提供は難しい」と答弁しています。そもそも公営住宅が足りず、常に空きがない状態であること、まちづくり推進住宅を廃止し、それに代わる仕組みも構築されていません。

 環境対策も生活支援の視点が必要です。板橋区は区内住宅の断熱改修助成を、令和元年度は50件の想定に53件、令和2年度20件の想定に27件行われていたにもかかわらず、「効果が少ない」「申請がない」などとして、令和2年度に終了してしまいました。しかし、板橋区民の78.7%が集合住宅に住んでおり、その内17万7千世帯は賃貸住宅です。助成事業を復活、拡充するべきです。国や都の助成で十分とする姿勢は問題です。

 国民健康保険料は、前年度より11831円もの値上げで、広域化以降最大の上げ幅です。

 後期高齢者医療は一人当たり平均で年6514円の値上げです。経済的に厳しく、医療をより必要としている人の健康保険で、負担増を続けることは許されません。

 介護保険は第9期計画のスタートに当たって、保険料が基準額で487円の値上げで、制度開始から3倍にもなっています。訪問介護事業所の介護報酬の引き下げが行われ、廃業に追い込まれる事業所が生まれているというのに、支援策が打ち出されていません。特別養護老人ホームの整備計画は、807人もの待機者がいるにもかかわらず、100名を1か所整備するだけの計画です。このままでは、施設にも入れず、在宅での支援も受けられず、保険料だけは取られていくという、「保険あって、介護なし」の状態が一層深刻になる事態です。

 反対する第二の理由は、区が行う事業で、低賃金、非正規労働が拡大し、命を守るセイフティーネットが脆弱になっているということです。

 保育、教育、介護、障害者支援などの仕事の多くが、会計年度任用職員や委託、派遣などの職員によって担われています。

 学校現場では、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、スクールサポートスタッフ、学力向上専門員、学校生活支援員、時間講師など、1000名近い会計年度職員が働いています。東京都のスクールカウンセラーは250名もの雇い止めが行われています。専門性や継続性や公平性が求められる業務で、様々な資格を持った職員が、継続して働き続けられる保障がない雇用状態でいいのでしょうか。また、不登校の子どもたちが、1000人にものぼっています。不登校の子どもたちに寄り添い、障害を持つ子どもたちの成長発達を支え、多忙化を極める教員を補佐するなど、どの職種も学校運営に大きな役割をもつ存在です。様々な学びの場の選択肢を広げることと同時に、学校のあり方そのものが問われていると受け止めて、子どもにかかわる教員の増員、専門職の正規化を行うべきです。

 学校現場だけでなく、区の様々な分野で専門性や継続性を求められる仕事を多くの会計年度任用職員が担っています。処遇改善と正規化への道を拓くべきです。

 国がすすめる、子ども子育て新制度や介護保険制度、障害者自立支援制度のもとでは、福祉の仕事が、時間単位の価格に置き換えられ、低賃金、不安定な雇用が広がり、担い手不足が深刻な状況になっています。

 保育園では、公定価格による実人員分の運営費で園運営をすることは困難です。安全、適切な保育をするためには、定数の1.5倍+1~2名の正規職員が必要というのは業界の常識です。そのためには、公定価格に含まれる人件費を必要な人員で配分する以外にお金は生まれません。低賃金、非正規で人員を確保する以外に方法はありません。今年4月から、保育園の保育士配置基準が76年ぶりに改定されますが、保育士不足の中で、すべての園で対応できる保障はなく、区は実態もつかんでいません。保育士不足を生んでいる原因が、子ども子育て新制度による、保育士の賃金を低く抑える仕組みにあることを強く指摘しなければなりません。私立保育園の保育士確保のための賃金引き上げの支援を行うべきです。一方で、公立園では4月から、改訂された保育士配置基準が実現します。区が直営で行うからこそできることです。公立保育園の新たな民営化方針が打ち出されていますが、板橋区の保育水準を守るために、民営化方針は撤回すべきです。

 介護や障害者支援の事業所で働く人たちの賃金も低く抑えられたままです。ヘルパーの高齢化が進み、なり手がいないなどの原因は、女性が行う家事労働の延長線にこうした労働が位置づけられているからです。命を守るケア労働、エッセンシャルワーカーの存在の重要性が、コロナ禍で浮き彫りになったにもかかわらず、月9000円程度の国の報酬加算しか行われず、区としての支援が打ち出されていません。

 一部児童館への指定管理者制度の導入が打ち出されていますが、板橋区は、地方行革に関する国への報告書で、児童館は「庁内他部署との連携が強いため直営で運営すべき」と回答しています。にもかかわらず、当面一部とはいえ、児童館への指定管理者制度の導入は、矛盾しています。あいユースなど中高生の居場所作りを含め、子どもたちへの支援は直営で行うべきです。

 自転車駐車場への指定管理者制度導入によって、シルバーの労働人員は99人削減され、労働時間は50.2%も減少しました。区とシルバー人材で最低賃金を改善しても、再委託先まで及ぶ保障はありません。高齢者の就労を後退させた自転車駐車場への指定管理者制度の導入は見直すべきです。

 新年度、新規の業務委託119件、新たに委託を拡大するものが、65件に及んでいます。区の様々な分野での計画作りや実態調査の委託、工事の設計・調査、工事、修繕、施設整備の委託、管理業務や事業の委託、IT関連のシステム改修等々、そこで働く人々の賃金、労働条件は、区の行政水準に直結するものです。公契約条例の制定に消極的で、チェックリストで良しとする姿勢は許されません。

 行政のあらゆる分野で、委託化、民営化が進められることによって、区民、利用者と直接かかわる現場から区職員が遠ざけられていくことは、区職員の自治体職員としての専門性が大きく後退していくことになります。公務労働は、区民生活を守るセイフティネットです。専門性を持った職員の増員、育成、男女平等や障害者雇用を促進するための職員定数の抜本的な改善が行われていません。

 反対する第三の理由は、行財政運営が、引き続き人件費削減、施設の総量抑制などの経営革新計画に固執し、開発優先、基金積立て優先になっており、住民参加が保障されていないからです。

 新たな「基金及び起債活用方針」は、今後10年間で、義務教育施設整備基金は毎年25億円、公共施設整備基金は22億円を積み増し、さらに財政調整基金は標準財政規模の概ね20~30%を確保するとしています。これにより、現在307億円の財政調整基金は、400億円まで積み上げることが可能になります。

 しかし、基金積み上げの根拠とされてきた、公共施設等のベースプランは、計画通りには進まず、集約・複合化をすすめるエリアマネジメントの方針は撤回され、4つの再開発計画を前提とした整備計画に姿を変えようとしています。

 どんな景気の後退局面でも施設整備計画は計画通り進める、そのための基金を積み上げるという姿勢は、一見将来を見据えているように見えて、実は、区民生活そのものを将来にわたって充実させていく計画を抑制的なものにしてしまっています。なぜなら、区民生活にかかわる事業では、人件費削減と施設の総量抑制、官から民への構造改革が貫かれているからです。現実的には、財政運営において、基金積み上げが優先されて、区民生活が後回しにされていくのです。結果として、今年度は、1年間で155億円も積み上げ、基金残高は総額で1299億円で、新年度の一般会計の50%にもなり、過去最高に上っています。区民生活の苦難が広がっても、基金だけは積み上げられていくという異常な事態です。

 板橋区は経営革新計画によって、これまで、いこいの家を廃止し、ふれあい館を有料化し、児童館を12館廃止し、区立の特別養護老人ホームを民営化するなどしてきました。今後2年間でさらに14の事業を計画事業に位置付けています。その中には、区立保育園の民営化、職員定数の削減、使用料・手数料等の改定、民間活力の活用、区民集会所のあり方検討などが示されています。官から民へ、自己責任、新自由主義による行政運営の徹底です。

 福祉事務所の再編整備が行われますが、障害者支援はワンストップにはならず、障害者支援の後退につながっています。手話相談員は、本庁舎と健康福祉センター2ヶ所に移ることになり、福祉事務所にはいなくなることもあきらかになりました。施設の面積を増やさず、人員増もしない、やりくりだけの再編は福祉の向上にはつながりません。しかも、内部検討だけで、住民、利用者などの声も反映されていません。福祉事務所を5ヶ所に増やす方針をもつべきです。

 福祉事務所のケースワーカーの1人当たりの世帯数は80世帯としていますが、ケースワークを行わない面接相談員も含まれており、実際には1人当たり86.6世帯になっていることが明らかになりました。区が行った福祉事務所職員に対するアンケート調査でも「本来の自立支援のためのケースワークの時間が足りない」ことが示されており、「ケースワーカーの増員を」の声に応えていません。

 小中学校の適正規模適正配置の検討では、「1学級あたり、小学校は20人から30人、 中学校は30人から35人」を適正規模としていた考え方をやめて、学級規模は「明記しない」という事務局の結論を、はじめから前提として議論が行われて、答申が出されています。これでは、教員の増員や大規模校の解消にも全くつながりません。

 志村小・志四中の小中一貫校計画では、今年度、14億6200万円の改築経費が予算化されました。秋以降の工事着工が予定され、総事業費は100億円とのことです。志村小学校をなぜ廃校にしなければならないのか、住民や区民の納得を得られないままの強行です。3月11日の最後の検討会で、地元の町会長からも「いまだ納得していない」という発言があり、出席した教育長は、用意した文書を読み上げてさっさと退席したと怒りの声が上がっています。住民、区民の声を聞かない統廃合計画は許されません。

 4つの再開発事業に約70億円の予算が計上されました。しかし、昨年度も大きな執行残となっています。大山駅前広場の用地取得率は5%、東上線連続立体化事業では、都施行の1から4号線も、区施行の5から6号線でも、いずれも用地取得率はゼロ%です。2021年12月の事業認可後、2年3ヶ月が経過していますが、進捗しておらず、住民合意がすすんでいないことの現れです。再開発事業がまちづくりに大きな影響を与えるにもかかわらず、住民の声が反映されず、行政需要への対応は後追いです。児童数の増加に対応するために、そもそも狭い板橋第六小学校が6階建ての改築を迫られる事態です。大山小学校を廃校にした区の責任は重大です。

 区は新年度予算を、「重点事業をバージョンアップ!未来創造積極予算」と銘打っていますが、従来の延長線上の構造改革を進める予算では、貧困格差がさらにバージョンアップし、公的責任が縮小後退する予算と言わなければなりません。「失われた30年」の責任の一端を、こうした区の行財政運営が担ってきたことへの反省が必要です。政策転換が求められていることを強く指摘します。

 最後に、予算修正についてです。

 家具転倒防止器具設置助成の拡充、ひとり親家庭家事援助者派遣事業の対象拡大、1ヶ月児及び産婦健診の助成実施、個人住宅・集合住宅の窓の断熱改修費補助、木造住宅耐震化助成率、限度額引き上げ、小中学校就学援助費の拡充で、総額2億6837万円の修正です。一般会計予算の0.1%、基金総額の0.2%で実現できます。

 議員各位におかれましては、議員の議案提案権に基づく予算修正の意義を十分にご理解いただき、ご賛同いただきたいと思います。

 最後に、本年3月末日をもって退職されます73名の区職員の皆様の、長年のご苦労に心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

 以上をもちまして、2024年度板橋区当初予算に反対する討論を終わります。

 ご静聴ありがとうございました。

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